ここ数年、日本国内のスマホ市場でじわじわと変化が起きている。
長らく圧倒的シェアを誇ってきたiPhoneとAndroid端末との使用率の差が確実に縮まってきているのだ。その背景としてまず挙げられるのが、iPhone側の「変わらなさ」である。13・14、そして16・17と、番号こそ変われど外観の印象は大きくは変わらない。同じような見た目の端末が毎年のように登場する様子からは、かつての「これは新しい!」とユーザーを驚かせていた頃の革新性は、やや影を潜めているようにも感じられる。
一方で、存在感を急速に強めているのが中国メーカー・Xiaomiだ。
スマホメーカーのイメージが強いものの、実際には掃除機、洗濯機、テレビ、エアコンなども手掛ける総合エレクトロニクス企業であり、「生活家電からスマホまで一式そろう」世界観を打ち出している。その武器はなんと言っても「コスパの良さ」だろう。日本でもここ数年で一気に攻勢を強め、浦和美園にはXiaomiショップ第一号店をオープン。ソフトバンクをはじめとした大手キャリアのメインブランドでは「神ジューデン」の一端末として高速充電性能をアピールしつつ、一方で格安サブブランド向けにはローエンド端末を一括1円で提供するなど、ハイエンドからローエンドまで幅広いラインナップを巧みに使い分けている。
かつては「安いスマホ=すぐ重くなる・使いにくい」というイメージが強かったが、いまや一定ラインの使い勝手は、どの価格帯の端末でもほぼ問題なくクリアしている。スマホの普及は、昭和の時代に言われた「三種の神器(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)」の並びに割り込むどころか、テレビを押しのけるほどの必需品へと変貌させた。Xiaomi自身がチューナーレステレビまで扱っていることを考えると、その構図はより鮮明だ。

では、これだけ成熟しきったスマホ市場で、次に期待されているものは何か。
最近のキーワードは「折りたたみ」だ。海外ではOPPOやHUAWEIなどがすでに薄型かつスタイリッシュな折りたたみスマホを展開している。日本でもGalaxy Z Fold7が登場し、「折りたためる大画面」を前面に押し出してきた。確かに技術的には非常に洗練されており、折りたためるのにかなり薄く、触ってみると素直に「すごい」と感じる出来栄えだ。
しかし、問題はその価格である。
ハイエンドの折りたたみスマホの価格帯は、もはやパソコン並み。「そこまで払ってまで折りたたみが必要か?」という問いに、どれだけのユーザーが即答で「必要だ」と言えるだろうか。現時点では、その付加価値がどこまで一般層に響くのかは未知数だ。
そんな折、私自身もついに折りたたみの世界に足を踏み入れてみた。
選んだのはGoogle 10 Pro Fold。耐久性とAI機能を前面に押し出した端末である。この端末を選んだ理由のひとつは、「アップデートの早さ」だ。Pixelシリーズは、Android陣営の中でも最も早くGoogle公式のアップデートを受け入れることが多く、AIを含む機能にいち早くアクセスできる可能性が高い。実際、カメラの処理や生成系AIの新機能など、「まずはPixelから」という流れはすでに何度も繰り返されてきた。
正直なところ、プロセッサの生の性能だけを比べれば、Galaxyのハイエンド機種のほうが一枚上手だと感じる場面もある。しかし、Pixelにはハードウェア性能の不足をある程度補ってくれるだけのソフトウェア側の独自のチューニングという“持ち味”がある。Googleはこれまでも、カメラの画像処理やバッテリー制御などをソフトウェアアップデートの積み重ねで着実に改善してきた実績があり、「買った後も育っていく端末」という期待を抱かせてくれる。
とはいえ、もうひとつ正直なことも書いておきたい。
薄さや全体の仕上がりという点では、Galaxyの折りたたみ端末には一歩及ばない印象がある。それなのに、値段はGalaxy Z Fold7と大きく変わらない。毎日ポケットに入れて持ち歩きながら、
「これだけの価格を払ってまで、“折りたたみ+AI”という未来へのチケットを先に勝った意味が自分の中にどれくらいあるのだろう」
と、ときどき自問してしまうのだ。
アップデートの早さやソフトウェアの伸びしろに期待して選んだとはいえ、「先行投資感」はどうしても拭いきれない。来年はiPhone17に折りたたみモデルが出るのではないかと、まことしやかに囁かれている。まったく売れないと言われるiPhone Airはその布石なのか、それとも単なる実験的モデルなのか。真意はよくわからないが、Appleもまた「次の一手」を模索していることだけは確かだろう。
スマートフォンというデバイスは、今まさに「成熟」と「限界」の狭間にいるのではないか。すでに多くの人にとって、スペックは「必要十分」であり、SNSや動画視聴、決済、ゲームなど日常的な行為は、どの端末でも不自由なくこなせるようになった。だからこそ、折りたたみであれAIであれ、「それがなくては困る」と言い切れるレベルの体験にはまだ届いていないのかもしれない。
それでも、ユーザー企業もどこかでゲームチェンジャーを持ち望んでいる。
画面が折れることでも、CPUが少し速くなることでもない、“スマホの次”を感じさせる何か。Google 10 Pro Foldを開いたり閉じたりしながら、私は今日もポケットの中で、その「次の一手」がいつ現れるのかを半分期待しつつ、半分あきらめ気味に待っている。
2025年12月