COLUMN

2026.02.16

当たり前を考える

行間を読み解く「意図の織り込み」:Claude Opus 4.6に見るAGIの輪郭

written by 藤波 健人

最近、AIへの期待がいつしか「諦め」に似た妥協に変わっていた。日頃からGeminiやGPTを使ってはいるものの、ユーザーとしての真の意図が反映されないもどかしさ。カスタムプロンプトを練り上げても、痒いところに手が届かない。結局、何度もやり取りを往復させ、ハルシネーションの修復に時間を溶かす。そんな日常に一石を投じたのが、Claude Proへの課金と最新モデルOpus4.6との出会いだった。

先日、興味深い記事が目に留まった。「AIで人員削減した企業の半数が2027年までに再雇用へ」というニュース(※)だ。
(※)“ごめん、やっぱり戻ってきて ”AIで人員削減した企業の半数が2027年までに再雇用AI導入でも人材は必要(https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2602/06/news09.html

ガートナーのエミリー・ポトスキー氏は、AIはまだ人間の専門知識や共感力、判断力を代替できるほど成熟してないと指摘する。確かに、これまでのLLM(大規模言語モデル)の挙動を見れば、その指摘は妥当に思えた。しかし、装飾も設定も一切排除した「生」の状態のClaudeに触れた瞬間、その認識に対して疑問を持たざるを得なかった。

せっかく契約してみたのだから……と考えたとき、ちょうど図書館へ行く用事があった。そこで目にした貸出システムに触れ、「これだ」と直感した。手近な制作物として、バーコードを読み取って管理できる「貸出管理アプリケーション」の作成を依頼してみたのだ。するとClaudeは、即座にコードを書き始めるのではなく、私に「対話」を求めてきた。「印刷プレビュー画面は必要か」「項目名称の変更機能は、どのような形式で実現すべきか」。

提示された選択肢はこちらの思考を見透かしたかのように、過不足のない3~4つの項目と自由記述欄で構成されていた。この選択肢の絞り込みにこそ、ユーザーの意図を汲み取る「推論機能」の自信が透けて見える。的外れな提案ではない、「確かにその機能はあったほうがいい」と思わせる行間を突いてくるのだ。これまでのLLMに感じていた「最初のアウトプットへのがっかり感」がここにはない。見えない空気のようなニュアンスを把握し、仕様に落とし込む。その圧倒的な優位性に、私は震えた。

現在、私は同時並行的に「YouTube動画からのレシピ・買い物リスト自動生成ツール(Recipe Dictionary)」の作成をClaudeと共に進めている。きっかけは、同居人に「何か便利になったらいいものはないか」と尋ねたことだった。「レシピをiPhoneのメモに書き起こすのは面倒。自動でリストにならないか」という要望を承ったのだ。

この作成では、Mac mini上のローカルLLM(Ollama / Gemma2 9B)に材料やレシピの抽出を任せているが、当初はなかなか上手くいかなかった。しかし、Claudeはその修復にも驚くほど的確に対応した。Claudeが生成したプロンプトやレイアウト構造は大きな効果を発揮し、抽出の成功率は一気に70%ほどにまで進歩した。

動画の概要欄やコメント欄に点在する情報を統合し、食材名が重なる場合は自動で足し算を行う。もちろん、「塩少々」といった曖昧な表現をどう数値化するかといった、実装上の細かな課題は残る。しかし、そうした「次の一手」を議論できるレベルまでAIとの対話は深化している。ローカル環境でのソフトウェア作成、フォルダの再構築、そして生活に根ざしたツールの構築。これらを一手に担うその姿は、もはや「道具」としてのAIを超え、AGI(汎用人口知能)の入り口に立っていると言っても差し支えないだろう。


▲作成中の「Recipe Dictionary」UI画面。YouTubeのレシピが整理され、比較的洗練されたリスト形式で並んでいる。

ただし、この「対話の深化」には代償も伴う。Claude Opusはその高い知性と引き換えに、消費されるトークン量が膨大になりがちだ。やり取りを楽しみ、内容を極限まで詰めようとすれば、Proプランの上限などあっという間に到達してしまう。知性を深堀したいユーザーにとって、現在の制限はあまりに惜しい。これほど面白いAIがあるのなら、さらなる高みのプランへ……と、追加の課金を真剣に検討する今日この頃である。

AI競争が激化する中で、最終的に勝者となるのは単に処理速度が速いモデルではない。人間の不満や期待、および言葉にならない予測がどれだけ学習に織り込まれているか。つまり、「ユーザーの意図」をどれだけ高い解像度で再現できるかだ。Claudeとのやり取りを通じて得られたあの「がっかり感の少なさ」と「感動」。それこそが、AIが真の意味で人間のパートナーへと進化を遂げた証左なのかもしれない。

2026年2月


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